派遣体験記
5年ほど前の話です。
「この次行くとこすごい作業所だけど驚かないでね」
苦笑気味にその派遣会社は言った。
何かいやな予感「そんなに遠いとこじゃないから引き受けて」うそつき。車のメーターは自宅から片道17キロをさしていた。
とある小さな村にある小さな有限会社にたった一か月半契約の派遣。初日からその仕事を引き受けたことを後悔し始めた。
その派遣先の会社は下請けの下請けで部品製造を行っているのだが、小さな事務所があるだけで、作業所はいろんなところを転々と借りて出来た部品を作業員全員と社長でせっせと運んでるような状態。
しかも私の仕事はその作業所の引越しから始まった。それまで製造業とはいえ大きなところに派遣されていた私はさらに驚愕した。部品を運び込んだその場所は潰れた製造会社をそのまんま借り切り、ネズミの巣になっているところから人間の住む空間をかろうじて取り戻したような場所。
メンバーは三角巾をした主婦ばかり。そして作業はどうみても家でやる内職レベルだった。そしてそのとおり。時々、家で作業したとみられる部品の箱を子連れで運び込む若い主婦。副社長は20代の娘。社長はその父親だった。そして彼曰く「俺はベンチャー企業を目指しているんだ」周りのメンバーはどうやら県の最低賃金。私は850円だった。なんで高い派遣代かけて私を雇うんだろう。なんかもっと変なセリフを聞かされそうで、それは聞かなかった。
めまいを感じつつ内職仕事開始。慣れない内も慣れてからも、仕事のスピードは全然言われず、おしゃべりの中で楽な仕事。昼はその部品の山をどけて、弁当を広げる。会話は子供の学校の話。ふと向うで「ラーメンの汁、部品にかけないでねー」笑い声。ちなみに私は明太子スパ。私も気を付けよう。
一か月半、和みっぱなしで仕事は終了。何だか遠いだけでちゃんとその分交通費も上乗せしてあった。…おいしい仕事だったんだろうか?ただ、唯一嫌だった事。仕事をさばき切ったあと、次の部品をあのネズミのテリトリーに踏み込んで持ってこなければならなかった事だった。
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